15.薄幸の伊賀者 魂の滋賀学院

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 まだ投げてくるとは……。  道河原には理解できなかった。明らかに様子がおかしい二球続けてのチェンジアップ。膝をつく仕草。それに……さきほどから才雲はしきりに何かを飲み込む仕草をしている。そして、道河原の鼻には確かに血の匂いが漂っていた。この霧隠はおそらく病気だ。吐血した血を飲み込んでやがる。  主審が才雲に大丈夫か? というジェスチャーを送ったが、才雲はにこりと笑って首を縦に振った。  だが……。  才雲が平静を装って投げたボールはまたも、もはや涅槃寂静を使う必要のない遅球であった。  道河原は豪快に振り抜き、ピンポン球のように弾き返した。また、両軍ベンチとスタンドが打球の行方を見るため立ち上がる。だが、またしても打球はレフトファウルゾーンへの大きな飛球となった。一斉に皆が座り、安堵と落胆のため息が球場を包む。 「……あいつ、わざとファウルにしやがった」  副島が呟いた。 「わざと?」 「ああ。あの霧隠はスタミナなんか分からんけど、限界迎えとる。そんな弱ったボールは打ちたくないって、ファウルにしおった。んでも、勝負やからな。橋じいが円陣で話してた意味がよう分かる。これで打ち取られたら目も当てられへん」  皆が道河原へ一斉に視線を向けると、道河原は鬼の形相で才雲を睨んでいた。
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