15.薄幸の伊賀者 魂の滋賀学院

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 肩で息をし、立っているのがやっとのように見える。才雲の意思を尊重して託したものの、滋賀学院の監督もベンチも困惑していた。どう見ても、いつ倒れてもおかしくない。  そんな状態から、才雲は次のボールを投げた。先程よりは速いが、平凡なストレートだ。道河原はまたしても、カットするようにスイングし、ファウルにした。 「ピッチャー、もうフラフラやわ。滋賀学院は他にピッチャーおらんのか?」  スタンドからもそう言った声が漏れ始めた。そんな時のことだった。 「おいっ、霧隠よ!」  突然の叫びだった。 「男じゃろ! そこに立つなら最後まで、命朽ちるまで全力で向かってこい! 俺ぁ、それしか打たん」  慌てて主審が両手を広げる。 「君、試合中の私語は慎みなさい」  道河原がヘルメットを脱いで主審へ詫びた。球場が騒然としている。 「さすがやな。甲賀の道河原家。伊賀者が破れなかった甲賀の壁と言われていただけはある。すまねえな、お付き合いしてくれて。次が最期だ」  才雲がそう呟いた。  才雲の呟きと同時に不思議なことが起こった。先程まで雲ひとつ無かった空に雲が現れ、太陽を包んだのだ。一斉に皆が空を見上げる。雲に囲まれた太陽は、一筋の光を地上に落とした。マウンドの一点へ。 「火事場のクソ力ってやつだ。頂点に達した陽を雲が隠すとき、雲の切れ間より落つ一筋の光に我、照らされよう。我ら霧隠一族が雲隠と呼ばれたのは、雲隠れしたからにあらず。この姿を見た者によって呼ばれたのだ」
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