15.薄幸の伊賀者 魂の滋賀学院

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 才雲の身体が滾っているのが誰の目にも見えていた。煙、いや、こんな真夏に才雲の身体から湯気が立っているのだ。  センターの川野辺は不穏な空気を察した。 「やめろ、才雲。そこまでしなくていい!」  川野辺の大きな声が球場に響いた。不思議な空間だった。川野辺の叫びから、誰しもが声を一言も発さない。メガホンもブラスバンドも鳴らない。いや、誰もが音を鳴らすことはできなかったのだ。皇子山球場を静寂が包んだ。  慌ててベンチを飛び出す監督と、慌ててブルペンから向かおうとした二年生ピッチャーの田村を、マウンドの才雲が再び両手を広げて制した。  小さな声だった。耳を寄せないと聞こえないような、微かな声。  だが、その声は不思議と皇子山球場の誰もに聞こえた。 「……行こう。……みんなで、甲子園に、行こう」  監督もナインも止まらざるを得なかった。  空気が割ける。  マウンド上の才雲を中心に空気がひび割れた。  道河原は大きく頷き、才雲の全身を目に焼き付けた。死ぬ気だと気付いたのだ。この男を忘れぬ。 『霧隠流奥義、死身(ししん)
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