15.薄幸の伊賀者 魂の滋賀学院

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 才雲が初めて大きく腕を振りかぶった。その大きなモーションを見て、月掛と桐葉はスタートを切る。もう走者は関係ない。この四番を抑えれば、きっと川原と俺の意思が田村へ乗り移り、次からの五番を抑えて決勝へ導いてくれる。  才雲は道河原に背中を向けた。トルネード投法。かつてメジャーリーグを席巻した野茂英雄のダイナミックな投球フォームである。下半身の力と上半身の大きなひねり。強靭な筋力がなければ、下半身がぐらつき投球にならない。才雲は激しく波打つ心臓の力で全身を支えた。  才雲が上半身をひねりながら道河原へ向かう瞬間、才雲の頭に赤い雨が降り注いだ。才雲は吐血していた。血を口から吹き出しながら投げている。主審が気付くが、もう遅い。  ダイナミックなフォームから、指先が最後の力でボールを押し出す。光の矢が道河原めがけて放たれた。マウンドとバッターボックスの間に稲妻が走った。  そのまま才雲は綿のようにふわりとマウンドに倒れた。 『甲賀流、道河原家。涅槃寂静剛力(ねはんじゃくしょうごうりき)』  ガキイィィィィィイイィィィィィン!!!  そんなけたたましい音が皇子山球場に響き渡った。誰もがその打球音だけを耳にして、音を受けた打球を目で追えた者はいなかった。  外野席最上部の壁にボールが当たった。その銃声のような音で、初めて球場にいた誰もがホームランだと気がついた。  土壇場9回、四番道河原の逆転ホームランで甲賀が試合をひっくり返した。  甲賀4-2滋賀学院
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