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ボーーーール! フォアボール!
これか、魔物というのは。滝音はごくりと唾を飲んだ。
圧倒的な力の差であったのに、根負けした白烏は先頭の二番打者をフォアボールで歩かせてしまった。
次は川野辺だ。ゆっくりと打席へ向かってきた。
「甲賀さん、俺らは死んでも甲子園へ行く。負けねえぞ」
打席に入った川野辺が滝音にそう告げた。滝音は頷くことも返事することもできなかった。不思議な感覚だった。打たれる。間違いなく打たれる。滝音はそう確信した。
川野辺はじっくりと白烏のボールを見ていた。際どいコースも見極め、3ボール1ストライクとする。
徐々に制球を乱す白烏に対し、簡単に打つよりフォアボールの方が効果的だと分かっていた。この土壇場でその冷静な判断ができる川野辺は見事としか言いようがない。
そして……。
キィィィィィン!!
フォアボールだけはまずいと判断した白烏と滝音が選択したストレートを川野辺は美しく流し打った。綺麗なバウンドが副島の前で弾む。
ノーアウト一、二塁。川野辺が9回表の甲賀と全く同じ状況を作ってみせた。この日一番の音量でブラスバンドが鳴り響く。
まだ試合は終わらない。終わらせない。徐々に球場がそんな空気を纏い始めた。
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