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満塁にも関わらず、滝音は弱気なリードをとった。外角一辺倒のリードで、カウントを2ボール1ストライクとする。
白烏は首を傾げた。鏡水のリードが変だ。慎重過ぎる。確かにコントロールが乱れてきているが、この五番以降はまだ俺の球威で押せるはずなのに……。そう思いつつも、白烏の滝音への信頼は揺るがない。カウントを取るためのスライダーのサインに頷いた。
「なめんなっ！」
相手はここまで三振で打ち取ってきたとはいえ、滋賀学院の正捕手だ。カウントを取りにくるぐらい分かっている。ものの見事にバットの芯でとらえられてしまった。
キャイィィン！
白烏が打球の方向を振り返る。懸命に桐葉が腕を伸ばすが、届かない。レフトへのヒット！ 三塁ランナーが手を叩きながらホームイン。これで一点差。
三塁コーチャーが忙しく腕を回し、二塁ランナーの川野辺も迷わず三塁を蹴った。
同点だ！ 球場がわっと震えた。川野辺が本塁だけを見ながら滑り込む。その顔の横を何かが通り過ぎた。ふと、顔を上げると滝音が捕球態勢に入っている。
「何っ！」
滑り込んだ川野辺の右足と、その右足に滝音のミットが触れるのがほぼ同時であった。
アーーーウトッ！
主審の手が大きく上がった。
レフトの副島が脱げた帽子を拾い上げていた。この場面でキャプテン副島のレーザービーム炸裂。甲賀は間一髪同点のピンチを免れた。
帽子を拾い上げた副島の顔は紅潮していた。
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