15.薄幸の伊賀者 魂の滋賀学院

43/46
前へ
/531ページ
次へ
「お前ら! なに気持ちで負けてやがんだ。そっちの方が失礼や! 野球なめんな、こら!!」  レフトから怒声が響く。  滋賀学院の川野辺が外野から声をかけて何度かピンチを救ったように、今度は甲賀のキャプテンが泥臭い檄でナインを鼓舞した。  思わず白烏と滝音は笑ってしまった。  そうだな、俺らもこいつの執念を実らせてやりたいと思ったじゃないか。今まで世の中の陰に隠れるしかなかった人生を爆発させるんだ。甲賀の誇りを世に知らしめる。そう決意して野球を始めたことを忘れていた。何も相手に気後れすることなんてない。  4-3。一点差。ワンアウト一、二塁。  依然として、甲賀は同点、もしくは逆転サヨナラ負けのピンチであることに変わりない。  だが、この副島の檄で実質、甲賀の勝ちは決まった。  ナインの顔が変わったのだ。誇り高き甲賀忍者の末裔としての顔に。  確かに滋賀学院の甲子園への想いは強く熱い。野球経験では敵わないかもしれない。ただ、ここに集った甲賀ナインは、幼い頃から死線をくぐって修行してきた者ばかりなのだ。それに、滋賀学院と同じく甲子園へ賭ける想いの強い副島と藤田がいる。負ける訳がない。甲賀ナインは歩んできた人生の誇りを取り戻していた。
/531ページ

最初のコメントを投稿しよう!

280人が本棚に入れています
本棚に追加