15.薄幸の伊賀者 魂の滋賀学院

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「……整列しよう。な?」  川野辺が一塁上で立ち上がれなかった仲間の肩を抱いた。ダブルプレーに倒れた六番バッターは顔を両手で覆い、嗚咽しながら一人では歩くことができなかった。その肩を抱きながら笑みを溢す川野辺を球場全体が拍手で讃えた。  両チームが整列すると、主審は両チームの一人一人の顔を見つめた。滋賀学院の大半は涙を止められず、下を向いていた。主審は異例の言葉を発した。 「滋賀学院高校諸君、前を向きなさい。君たちは素晴らしかった。両軍、素晴らしい試合を見せてくれた。両チームともこの試合を誇りに思ってほしい。……では、4対3にて、甲賀高校の勝ち!」  ありがとうございましたーー!  ありがとうございましたっ!!  白烏と川原は固く手を握り合った。川原は泣いていた。泣きながらも先に川原が白烏を称えた。 「ナイスピッチング」 「いや、川原くんこそ。……彼は……霧隠くんは、大丈夫か?」 「ああ、病院に直行した。たぶん、大丈夫だと信じてる。……遠江を倒して、甲子園行ってくれ」 「ああ」  道河原と西川も握手を交わしていた。 「勉強をさせてもらった。滋賀学院の分、必ず明日勝ってくる」 「ああ、応援している。頼むぞ」  キャプテン同士、川野辺と副島はずっと固い握手を交わしていた。 「甲子園、行ってくれな」 「ああ、必ず。素晴らしい試合をありがとう。強かった」 「君たちの方が強かった。悔いはない」 「君のキャプテンシーは俺の理想や」 「ああ……ありがとう…」  川野辺はそう言い終えると、膝から崩れ落ちた。  もう、キャプテンではなくなるのだ。  もう、あんなに目指した甲子園へは行けないのだ。  もう、高校野球が終わったのだ。  そう実感すると、涙が滝のように溢れ、足に力が入らなくなった。そのまま叫ぶように川野辺は泣いた。  そっとずっと、副島がその背中をさすっていた。肩を抱くことはしなかった。副島は少しでも長く、川野辺をホームベースの近くに居させてあげたかった。
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