16.決勝 遠江戦 甲賀者極まる

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 甲賀高校のグラウンドでは、準決勝の熱戦冷めやらぬ中、ナインがランニングで軽く汗を流していた。  ここで小さなアクシデントが甲賀高校を襲った。軽いランニングの最中、ふぁさり、と音がして最後尾の選手が地面に倒れたのである。 「あ、おい、藤田!」  隣を走っていた月掛が止まり、皆が振り返る。そこには、うつ伏せに倒れている藤田の姿があった。  軽い熱中症だった。  急いで担架が準備され、月掛に飲み物を飲ませてもらっている藤田をそのまま担架に移す。ぐたりと身体の力が抜け、しんどそうだ。 「この大会、藤田なしではここまで来れなかった。あとは桔梗、頼むぞ」  虚ろな目をして横たわる藤田を見て、副島は隣にいた桔梗に囁いた。 「うん、分かったよ。藤田くんにご褒美あげなきゃね」  ぐったりしていたはずの藤田がその言葉にむくりと起き上がる。副島は頭を押さえつけて、また寝せた。  スタミナのない藤田がここまでよく頑張ってくれた。だが、覚醒した白烏がいる限り、藤田を安心して休ませられる。外野守備に関しては桔梗の方が上手い。こんな僅かな時間でよくぞここまでのチームになった。副島には込み上げるものがあった。  さあ、明日は決勝戦だ。 「暴れようぜ! なぁ、みんな!」  副島がそう叫ぶと、皆が苦い顔をした。 「勝手にテンション上がってんな」 「ちょっと、ああいうとこ気持ち悪いすね」 「ああやって気持ちが高ぶり過ぎると、ミスをする。気を付けるぞ」  何はともあれ、明日は決勝戦。甲賀忍者と副島たちはどんな野球を魅せるだろうか。
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