16.決勝 遠江戦 甲賀者極まる

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 7月28日 皇子山球場 曇り 『さぁ、両チームがベンチ前に整列しました。滋賀県大会決勝、遠江高校対甲賀高校いよいよ試合開始です。本日の解説は元野洲西高校監督でいらっしゃいます山下さん、実況はわたくし蜷川(にながわ)でお送りします』  滋賀県大会決勝は、びわこ放送で生中継される。甲賀にとっては初体験のことだ。 「テレビだと? くだらぬ」  テレビ中継を聞きつけ、月掛が小躍りしながら皆に伝えると、桐葉はそう言って切り捨てた。  道河原や白烏は、月掛とテレビの映り方を話しながら舞い上がっていた。そこに桔梗や犬走、蛇沼も加わり、わいわいと決勝の緊張感はどこへやら。甲賀のベンチ裏には、笑いが絶えない光景があった。  副島と滝音の、キャプテンと副キャプテンコンビはその様子を苦笑しながら見ていた。 「こいつら、決勝って緊張感ないんか?」 「ふふ、まあ、これがうちらしくて良いんじゃないか?」  聞いていると、ヒットを打った後に誰がテレビカメラに向けて一番かっこいい顔をできるか勝負をするなどと、盛り上がっている。 「それより桐葉は? あいつ、もう始まんで」 「くだらぬって言って離れたんだろうな。ちょっとトイレ見てくる」  そう言って滝音がトイレへ探しにいくと、トイレの鏡で髪型や顔の角度を気にしている桐葉の姿があった。 「……刀貴……何やってんだ? 試合、始まるぞ?」  後ろから滝音が話しかけると、桐葉は驚いて飛び上がり、顔を赤くしていた。 「な、何でもないっ!」  滝音は桐葉の意外な一面を見た。桐葉は滝音だけで良かったと心底ホッとしていた。
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