16.決勝 遠江戦 甲賀者極まる

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 白烏がまっさらなマウンドに登る。すこぶる調子が良く感じていた。ぐるぐると腕を回し、ちらりとベンチを見た。ベンチに背番号10の姿はない。この大会、藤田がいなければ一回戦で負けていた。白烏のピッチングが完成するまで、もともと無いスタミナを振りきるまで使い果たしてくれた。ここでやらなきゃ先輩として情けねえ。なぁ、藤田? 白烏は両頬を手で二度ほど叩き、気合いを入れた。  バックネット裏にはスピードガンを構えるプロ野球スカウトたちの姿が目立った。目当ては遠江の大野だったが、昨日の試合で少し風向きは変わっていた。この甲賀高校の白烏というピッチャーは化け物だという情報が飛び交っていたのである。  大野は一塁側ベンチからバックネット裏を覗いていた。白烏に向けてスピードガンを構えるスカウトたちの姿を見て、唾を吐き捨てた。 「大野、唾を吐くな。試合始まるぞ」  遠江高校の背番号15久保田(くぼた)がその姿を見て注意をした。遠江高校のキャプテンである。 「ちっ、分かってるわ。声出すしか能がねえくせに、いちいちうるせえんだよ」  機嫌を損ねたのか、大野はベンチの奥に移動し、二人分の幅をとって足を組んで座った。
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