16.決勝 遠江戦 甲賀者極まる

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 白烏が遠江の一番バッターに向かう。  一番バッターはショートの斉木。走力、打力、守備力に秀でたオールラウンダーだ。打力では滋賀学院に劣る遠江は、この斉木の出塁が鍵になる。伊香保からも、この一番の斉木を何とか出さないようにと言われている。  結人、力で押してみるぞ。  ああ、鏡水。  投球練習のボールを受けて、滝音は昨日よりも白烏のボールが走っているのを感じていた。滋賀学院の打線に通用した以上のストレートならば、おそらく遠江もなかなか打てないだろうとにらんでいる。  滝音の読み通り、斉木は二球続けたストレートを空振りした。しかも、かなり振り遅れている。ベンチから、キャプテンの久保田が声をかけた。 「斉木っ、力抜いて! コンパクトッ!」    バットを短く持ってコンパクトに振る仕草をし、にっこりと笑った。斉木はヘルメットの鍔をつまみ、久保田と監督ににこりと笑みで返した。  遠江の監督は、遠江をここ十年で七度甲子園へ導いている名将、仲村監督である。仲村監督は練習は厳しいが、試合はサインのみで基本的には選手の自主性を重んじている。自分たちで考えること、感じとることの意味を大事にしている監督だ。  キャプテンの久保田が斉木に声をかけたことを仲村監督は頷きながら、斉木にも笑みを送っていたのだ。  ベンチからよく声が出ている。 「斉木、楽に楽に」 「オッケー、短く短く」  その声の中、大野だけは飲み物を飲みながらベンチで仰け反っていた。
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