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ひとつボールを挟んでの四球目。斉木は白烏が放った高めのストレートに詰まらされた。月掛が大きく手を広げる。しっかりとグローブに収め、大事な先頭打者である斉木を打ち取った。ぽおんと白烏がグローブを叩く。
「ちっ、斉木め。ポイントが後ろ過ぎんだよ。相変わらず速い球に対応できねえ奴だな」
大野が吐き捨てるように呟き、控えキャッチャーに目線を送った。キャッチボールをするぞという合図だ。
「おい、大野。一人出れば回るんやから……」
ベンチを出ようとした大野の背中を久保田が呼び止めた。大野の打順は四番だ。一人出れば回ってくる。
「斉木が出ないなら、回ってくる可能性は低いだろ。俺がゼロに抑える方がよっぽど大切だ」
大野は久保田の顔すら見ずにベンチを出た。狼狽える控えキャッチャーが久保田を見たが、久保田は苦笑いして、行ってこいと顎を向けた。
結局、遠江の二番、三番打者は絶好調の白烏の前に凡退し、初回の攻撃を終える。大野の言う通りになったが、大野だけがこの遠江高校ベンチで浮いた存在になっていた。
「ドンマイ、ドンマイ! 守っていこう。大野、頼むぞ!」
久保田が手を叩きながら仲間を鼓舞した。遠江ベンチから、久保田の拍手に押されるように次々と遠江の選手が走っていく。
大野だけはゆっくりとマウンドへ向かった。
「お前に言われたくねえって……」
そんな言葉を呟きながら。
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