16.決勝 遠江戦 甲賀者極まる

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 大野は150kmを超えるストレートとカットボール、それに落差のあるフォークを得意としている。特にプロのスカウトにとって評判が良いのは、どの球種も球速差を設けて打ち取れる点だ。無理に三振を狙うことはしない。タイミングを外して打ち取ることで、消耗を少なくすることも意識している。極めてプロ向きと言える。  初回。バットに当てられると厄介な犬走には150kmを超えるストレートを中心に、普段はあまり使わないカーブ、そしてフォークと、バットに当てにくい配球を大野は選択した。  必死に当てにいくも、犬走はタイミングを完全に外され、かすることすらさせてもらえなかった。  対して、パワーに劣る月掛には打てると見せかけたカットボールで芯を外し、敢えて打たせた。ストレートと思って振りにいったところを、月掛は芯を外されて平凡な内野フライに打ち取られる。  要注意バッターとしていた桐葉へも入念であった。試合を通して打ち取るために、ストレート、フォークだけで三振に切り取った。  桐葉は唇を噛んだ。ストレートもフォークも全力で投げてこなかったのだ。「見る」ことに専念する第一打席で、大野は「見せてこなかった」のだ。  淡々と三者凡退に抑えられた初回は、大野の大人勝ちといったところか。伊香保は思わずうーんと唸った。
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