16.決勝 遠江戦 甲賀者極まる

14/95
前へ
/531ページ
次へ
 白烏が振りかぶって内角高めに向けて腕を振った。同時に大野が大きく左足を外側に開く。極端なオープンスタンスのような状態のまま、スイングの始動をワンテンポ遅くした。 「これを狙うのか」  思わず滝音は声を出した。首すじに近いボール球を強引に振りにいく。腕をたたみ、遅く始動したスイングはかなり後ろでボールをとらえた。ここからが圧巻だった。  スイングのスピードが上がる。ボールがバットにくっついたかのように、長く接する。大野はそのまま強引に、その強靭な身体を捻り、白烏のボールを引っ張った。  キイィィィィィン!!  強烈なフック回転がかかった打球が副島を襲う。素早く半身でダッシュする副島の頭上を打球が越えていく。副島はジャンプしようとしたが、その踏み足を堪えてその場でぴたりと止まった。まだ伸びるボールに、とてもジャンプしても届かないと判断したのだ。フェンスに当たってのクッションボールを素早く処理する策へ副島は切り替えた。どうにかスタンドインしないでくれと願いながら。  空気を猛然と切り裂きながら、大野の打球はフェンスの最上段に当たって跳ね返った。あとわずか数センチでホームランであった。副島は勢いよく跳ね返った打球を処理し、すぐさま二塁へ送球する。一足早く大野が二塁へ滑り込んでいた。  初めて白烏の球が外野の頭を越えた。大野の目の覚めるようなツーベースヒットで、遠江はノーアウト二塁のチャンスとなる。
/531ページ

最初のコメントを投稿しよう!

280人が本棚に入れています
本棚に追加