16.決勝 遠江戦 甲賀者極まる

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「あのボール打つんかよ……」  白烏は一気に迎えた先制のピンチに悔しさを滲ませた。滝音が気にするなというように身振り手振りで合図する。  二塁上にいる大野は見下すように白烏の背中を見ていた。  お前のようにオーバースローより角度をつけて腕を振るタイプは、内角のボールに力を伝えにくいんだよ。まして、リストや指先の強さで投げてくるだけに尚更だ。そういうタイプは下半身で内角を狙うイメージでないと、内角高めのボールは棒球になりやすい。  そんなことも分からないで、俺と肩を並べるように言われたら虫酸が走るぜ。プロのスカウトさん、よく見てくれたかよ? 大野は誇示するかのようにバックネット裏へ目線を向けた。  先制のピンチだが、滝音は落ち着いていた。次の五番までは要注意だが、映像で見る限り、下位打線で結人のボールを打てる者はいないと確信めいていたからだ。  事実、五番打者は際どいコースをついてフォアボールで歩かせたが、この試合初めてのセットポジションからの投球となった白烏に対して、六番・七番・八番は全く歯が立たなかった。  残塁となり、大野は二塁上で大きく溜め息をついた。 「……あいつら。役に立たねえ、マジで」  ベンチに戻ろうとした月掛は、その声を聞いて大野の方へ振り向いた。怒りに満ちた表情を見て、月掛はもやもやする気持ちを胸に抱いた。こいつ、野球やってて楽しいんだろうか?
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