16.決勝 遠江戦 甲賀者極まる

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「なんか、あいつ。一人で野球やってやがんな」  道河原が遠江ベンチでぽつんと一人で座っている大野を見た。 「伊香保の言う通り、あの大野というピッチャーが投げて打ち、甲子園に導いたチームだ。どんどんワンマンチームになるのも無理はない」  桐葉が淡々と道河原にそう応えた。 「ああ、確かに無理もない。だが、それは自分への過大評価を生む。自己への過大評価は時として思考を止まらせる。思考が止まれば成長は止まる。……そんなところかもしれないな」  滝音は腕を組んだまま、そう言って少し悲しい顔をした。 「鏡水、何を言わんとしてる?」  表情を察した白烏が訊ねた。 「みんなも気づいているはずだ。必死に遠江を倒すためにやってきた滋賀学院と頂上で茶を啜っていた遠江と、どちらが強いかを」  滝音はそう応えて、強い視線を白烏に向けた。 「……なるほどな」  白烏が頷き、近くにいた月掛や蛇沼たちも同調した。この完全試合ペースに焦る伊香保には、皆の反応が理解できないでいた。 「ちょ、ちょっと待って。今のところランナーすら出せていないのよ? まるで滋賀学院の方が強いみたいな言い方……」  そう言って強張った伊香保の顔に、滝音は優しく首を振った。 「ああ、その通りなんだ。彼ら滋賀学院は既に遠江を追い抜いていたんだ。俺らはそれを証明してあげる義務がある。俺はそう思ってる」
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