16.決勝 遠江戦 甲賀者極まる

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 呆気にとられる伊香保が隣の桔梗に訊ねた。 「ほんとに? 打てる感じなの?」 「んー、あたしは滋賀学院との試合に出てないから何とも言えないんやけどね。ただ、端から見てて由依も思わへん? 熱気が違うって」  伊香保は自信無さそうに、けれど確かにそうだと首を縦に振った。 「あっちの大野って選手はすごい。確かにすごいよ。でも、所詮ひとり。野球はチームでやるスポーツやから、9人対1人ならあたしたちが勝つかな。もう少し正確に言うと、あたしたち9人ってチームと、あっちは8人と1人のチームって感じ。あたしたち忍者は任務を一人でこなすことなんて絶対にない。そこには敗北が待ってる。たぶんだけど、もうすぐ綻びが出ると思う。そうなったら打てるんじゃないかな」 「桔梗ちゃん、分かんない。確かにチームワークが良いとは言えないけど、あっちの大野は圧倒的だわ」  伊香保はロジカルシンキングを基本として、物事を整理していく。だから、桔梗の話は伊香保にとっては答えになっていないのだ。  桔梗はそれを分かって、小さく笑った。 「ふふ。由依、滝音くんは滋賀学院のピッチャーだった川原や霧隠の方が大野より優れてるなんて一言も言ってないよ? 滋賀学院というチームが遠江というチームを追い越していたとしか」  なるほど。伊香保は深く頷いた。  それでも、ナインが感じる勝利への確信を伊香保はにわかに信じられない。本当に打てるのだろうか? チームに綻びなど出るのだろうか?  グラウンド整備が終わろうとしている。  甲賀ナインはベンチに座って、対岸のベンチを眺めていた。遠江ベンチには、やはり一人だけ白けた目でチームメートを見る大野がいた。 「あんなのは良くない。他のチームメートはよく声が出てて良いチームなのに、大野にだけ気を遣ってる。事情は知らないけど、僕が次の回、突破口を開くよ」  蛇沼が言った。蛇沼は仲間の大切さを一番知っている。蛇沼には大野の態度が許せなかった。
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