甲賀忍者、甲子園へ行く【地方予選編】

16.決勝 遠江戦 甲賀者極まる

　終盤に向かっていく六回の表と裏、結果として両校に点が入る。但し、その点はあまりに対照的な入り方をした。

　白烏はこの試合、バッター大野との三回目の対戦を迎えていた。ツーアウトでランナーなし。
　明らかに長打警戒。しかし、ここで白烏が痛恨の失投をしてしまう。スライダーが抜けてしまったのだ。高めに抜けたスライダーを大野は思い切り上から叩いた。大きな放物線がセンター犬走の頭上を襲う。猛然と走りフェンスに昇ったが、その執念も空しく大野の打球はバックスクリーンに突き刺さった。

　この試合、やっと入った先制点に球場が沸き上がる。一塁側の応援席から女子生徒たちの黄色い歓声が響き渡った。大野がゆっくりとダイヤモンドを回る。
　ベンチに戻った大野が祝福の中に入る。遠江ナインが笑顔で大野の背中や尻を叩く。だが、大野はそそくさと控えキャッチャーとともにキャッチボールを始めた。２アウトなので、ピッチャーがキャッチボールををして次の回に備えることは当たり前のことだ。それでも……。特にサードの守備位置からこの様子を見ていた蛇沼は、露骨に悲しい表情を浮かべていた。

　白烏が五番打者を打ち取ると、蛇沼は一目散にベンチへ戻り、ヘルメットをかぶった。

「周りが不甲斐ないと感じる実力であろうとも、自分で孤独を選んではいけない。あんなチームメートがいて、ありがたいと感じない人に、僕は負けたくない」

　蛇沼は独り言を呟いて、完全に顔を変えた。打席に入った顔が違いすぎて、キャッチャーも大野でさえも驚きを隠せないでいる。
　遠江に先制点が生まれて均衡が破れた六回裏、沸々と闘志を燃やす蛇沼から甲賀の猛反撃が狼煙を上げる。