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嫌な感じだ……。
遠江のキャッチャーは一球だけ様子を見ることにした。ここまで完全試合ペースなのは、なにも大野一人の手柄ではない。このキャッチャーが打者の分析を済ませ、大野を上手くリードしていたからにもよる。
キャッチャーは蛇沼のまるで人が変わった表情を見て、警戒すべきと判断した。現に、この蛇沼は今大会で表情が変わったときは、人が変わったように打っている。キャッチャーは外へのボールとなるストレートを大野に要求した。
大野はこの試合、初めて首を振った。こんな下位打線に逃げ球は要らない、と。
いや、待ってくれ、大野。嫌な予感がする。一球だけ様子を見た方が良い。キャッチャーは首を振った大野へ、再度そのメッセージを送る。キャッチャーは簡単には引き下がらなかった。キャッチャーは大野に打たれて欲しくないという信念をもっていた。故に、こだわりを見せてサインを変えない。
大野は明らかに不機嫌そうに、プレートを外した。キャッチャーがマウンドに向かおうとすると、それを手のひらを向けて制した。キャッチャーの心配とこだわりをよそに、大野は頑なにボール球を拒んだ。キャッチャーは仕方なく、大野の要求するボールのためにミットを構え直した。
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