16.決勝 遠江戦 甲賀者極まる

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 晴れ渡っていた空に、大きな黒い雲のかたまりが近づいてきていた。辺りが徐々に暗くなっていく。  完全試合ペースだった大野は、蛇沼のヒットからこの空のように突然曇り始めていく。  白烏は打席で身を引いた。  マウンド上には明らかに苛立ちを見せる大野がいた。大野はあからさまにキャッチャーとのサイン交換を適当に済ませ、白烏の胸元めがけて初球を投じてきたのだ。 「あぶね。報復のつもりかよ。俺はこんな近くには投げてねえぞ」  白烏がキャッチャーを睨んだが、キャッチャーはばつの悪そうな顔を浮かべている。  あいつが自分の判断でってやつか……。くだらねえな。白烏はわざと打つ気のない構えをとった。まるで自分の愚かさを知れとでも言うような、そんな仕草だった。  大野が乱れる。内角へ脅すようなボールを投げ、白烏はつまらなそうに避けて見送り続けた。傍目に見ても、もったいないフォアボールで白烏を塁に出す。キャッチャーが落ち着け、と両手で気持ちを抑えるよう促すが、大野は聞く耳を持たない。 「……ほらね。くだらない男だなと思ったよ」  続いて桔梗が鼻で笑いながら打席に入ると、五回までに見ていた大野の大人としての投球は見る影もなかった。頭に血を昇らせた大野を見て、桔梗は自分も打てると思ったが、ベンチからの指示は送りバントのようだ。 「ま、そうやよね」  桔梗が更なる苛立ちを引き出させようと、バントの構えで揺さぶった。
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