16.決勝 遠江戦 甲賀者極まる

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 ぽつり。一滴、雨粒が大野の帽子に落ちた。大野は気がつかなかった。  犬走は副島に絶対に当てるから大丈夫と言い残し、ベンチを出ていた。副島が蛇沼と白烏に向けてサインを送る。  スクイズ。  もちろん、遠江もそこは織り込み済みだ。内野手が極端に前に出てくる。外野手が内野深くまで前進し、外野がいない守備体形だ。一見、とてもスクイズは成功しそうにない。それでも犬走は自信を持っていた。三塁ランナーの蛇沼も、二塁ランナーの白烏も、どこか余裕を持っているように見える。  何故か。それはスクイズを狭義でとらえるか広義でとらえるかの違いである。犬走をはじめとした甲賀ナインはスクイズの成功を、広義でとらえていた。  狭義の意味でスクイズの成功をとらえるならば、三塁ランナーを本塁に返して一点をもぎとることである。もちろん、それがベストだ。では、いったい甲賀ナインが考える広義の意味でのスクイズ成功とは……?  だらりと犬走がバットを下げている。いつもの当てる構えだ。犬走はチームの合宿参加が遅れた分、バント練習が不足している。こちらの方が当てやすいのだ。  遠江内野陣は前のめりに構えている。ここから大野の苛立ちは更に増していくことになる。
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