280人が本棚に入れています
本棚に追加
犬走への初球。蛇沼と白烏がスタートの構えを見せる。遠江バッテリーはスクイズさせじと、大きく外角に外した。犬走はピクリともしない。
２球目を投じる前、さすがに大野はキャッチャーと慎重にサイン交換した。もう一度、外すか外さないかだ。大野が頷き、セットポジションに入る。視線の先にいる蛇沼が大きなリードをとっている。大野はやれるものならやってみろとばかりに蛇沼を睨み、そのまま投球動作に入った。
犬走の上体が沈む。すすす、と走り始める。大野の投じた浮き上がるようなストレートに対し、犬走は強靭な下半身の力をバットに伝えた。しっかりとバットに当て、ボールが転がると同時に蛇沼と白烏がスタートを切った。
セーフティスクイズか。なめんな。
セーフティスクイズは確実にボールが転がってからランナーがスタートするスクイズだ。バッターが外されて当てられないというリスクを避けることはできるが、よっぽどうまく転がさなければ三塁ランナーは本塁で憤死となる。この遠江が敷く超前進守備に対してセーフティスクイズをするのは、常識的には無謀だ。
大野は一目散にボールへ駆けた。その前に超前進守備を敷いていた三塁手がボールを掴む。
よっしゃ、アウトだ。捕球した三塁手と同じくボールに向かっていた大野は、同時にランナーがまだたどり着いていない本塁へ顔を上げた。
キャッチャーが腕を交差させて、大きくバツ印を描いている。こっちじゃない、という合図だ。三塁手と大野の動きが止まった。
こっちじゃない？ どういうことだ？
最初のコメントを投稿しよう！