16.決勝 遠江戦 甲賀者極まる

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 三塁手も大野も思わず三塁を確認した。バットに当たった瞬間にスタートを切っていたはずの蛇沼は、既に帰塁している。無理と判断して、咄嗟に戻ったということか。  三塁手が一塁へ投げようとすると、それは無駄だと気がついた。もう、一塁手前まで犬走は到達していたのだ。  結果的に犬走のセーフティバント成功のような形になったが、スクイズを警戒していた遠江にとっては拍子抜けだった。  甲賀ベンチでは伊香保と滝音が二人でうんうんと頷き合っていた。  策略を知らない道河原が、頷き合う二人に目を向けた。 「滝音、今ので良いのか? これ、月掛が内野ゴロでも打っちまったらゲッツーで一点も入らねえぞ。やっぱ普通にスクイズの方が良かったんじゃねえのか? 満塁じゃない方があっちも守りにくいし」  道河原が滝音にそう問うた。確かに二、三塁より満塁の方が守備側は守りやすい。タッチも要らない分、ダブルプレーも狙いやすくなる。 「うーん、まあな。ただ、これは軍師としての勘ってとこかな。月掛が何かやろうとしてるし。月掛には無理なら三振で良いとも言ってあるし」 「三振で良い?」 「ああ、今のプレー、真っ当なスクイズなら、失敗もあった。2アウトなら月掛は打たないといけなくなる。だから、このセーフティスクイズで犬走がセーフなら御の字かな。俺と伊香保はこの回に大量点が狙えると判断してるから」
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