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くっそー。
俺は打ったらゲッツーかもと滝音さんは思ってやがる。三振しても良いから……なんて……屈辱だぜ。
月掛には跳躍力以外に器用さという特性がある。副島や滝音はその器用さを買って二番に起用しているのだ。月掛もそれは充分に分かっていた。今、その真髄を見せる時。
月掛はグリップの位置を肩より下げ、腰の辺りにバットを構えた。バットの先は大野へ向かっている。まるで、目の前の相手に突きを見舞うような、そんな奇妙な構えをとった。
大野はセオリーの通じない相手に苛々を募らせていた。さっきのセーフティスクイズもどきはいったい何なんだ。そんな大野の目の前で月掛がまた妙な構えをとっている。
このチビ……。
月掛は鼻から細く長く息を吸った。集中力を研ぎ澄まさなければ、さすがに成功しない。まだ開発中の技を月掛は決める気でいた。
刀やくないならば、容易な技だ。バットでは、練習中でもよほど集中しなければ決まっていない。だが、むざむざと三振などまっぴらだ。失敗すればダブルプレーの可能性があるが、必ず決めてみせる。この大野のストレートならば、可能性はある。
『やってみせるぜ、甲賀流月掛家、繊月』
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