16.決勝 遠江戦 甲賀者極まる

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 繊月とは三日月よりも更に月齢の若い、別名二日月とも言われる繊維のように細い月のことだ。  刀やくないでは、斜めに角度をつけて斬る方が斬る範囲が広くなり、斬りやすい。当然、身体が大きい者が振り回すと、斬る範囲は更に広くなり、より相手を斬りやすくなる。  月掛家は代々、背丈が小さい。それを跳躍力や素早さで補ってきた家である。だが、如何せん、背丈の小ささゆえ、斬る範囲は狭く、威力も小さい。  斬る範囲は狭くとも、月掛家は素早さと並外れた跳躍力で相手の懐に潜ることはできた。斬る範囲のハンデはそれで克服できたが、斬る威力は工夫するしかなかった。そこで生まれた技が『繊月』である。  相手の身体に対して、完全に垂直に、刃の最も鋭い刃先から寸分の狂いもなく真っ直ぐに突く。侵入角度がつかない分、刀に預けた力は真っ直ぐに相手の身体に突き刺さる。身体の力をそのまま伝え、相手を深く突き刺す。  相手は深く刺されながら、傷痕は幅5mmにも満たない、まるで繊月のように細い傷を残して息絶える。身体の小ささというハンデから知恵生み出された、月掛家の技だ。  月掛はそれをバットで行おうとしている。月掛以外、まさか今からボールがバットで突かれることになろうとは、この球場の誰も想像していない。
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