16.決勝 遠江戦 甲賀者極まる

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 遠江の監督、仲村監督は伝令を送った。 「久保田、頼む。お前しかおらん……」  キャプテンの久保田が笑顔でマウンドへ向かった。内野手が久保田の笑顔に笑みで応える。一人だけ、笑みを浮かべないでいた。雨が、マウンドに降り注ぐ。 「大野、相手は色々やってくるけど気にすんな。俺らは俺らの野球をやればいい」  遠江ナインが頷く。大野は俯いたままだった。 「とりあえず監督からは相手が何をしてこようと中間守備でいこうと。あと……大野、冷静になれよ」  久保田が大野の目の前に立った。 「俺は冷静や。俺は俺しか信じねえよ。もういい、守るぞ」 「どこが冷静なんや、大野。キャッチャーの高橋はこの甲賀打線を昨晩徹底して研究したんやで。高橋をもっと信用せえよ!」  久保田が大野に向かって真っ直ぐ訴えた。大野は真っ直ぐ向かい合った久保田の肩を、ぐいと力強く押し出し、ベンチへ向けた。 「タイム、終わりだ」  そう言って大野は輪から離れた。もう一度すがりつこうとした久保田を、ショートの斉木が止めた。首をゆっくりと横に振り、「もういい」と久保田へ小さな声で言った。
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