16.決勝 遠江戦 甲賀者極まる

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「ダメです。すみません、監督……」  ベンチに戻った久保田は仲村監督に頭を下げた。 「そうか……。すまん、俺のせいだ。お前が謝ることじゃない。ここはみんなで大野を信じよう」  仲村監督は無念そうに、ただ、久保田に気を遣わせないように、そう応えた。もどかしい表情は消えない。  仲村監督は全てを知っている立場で、自分を責めていた。大野が孤立してしまっている今の状況は、自分のマネジメントのせいだ、と。何とか甲子園の切符を掴んで、もう一度チームを一つにまとめたい。  だが、そんな願いを甲賀の三番打者が打ち砕く。  1アウト満塁。ここで、ここまで甲賀高校で打率、本塁打、打点、三冠王を誇る桐葉が打席に向かう。準決勝は主役を道河原に譲ったが、やはり桐葉の覇気は相手を圧倒するものがある。終始目を閉じたまま打席に向かう桐葉を、遠江ナインは固唾を飲んで見ていた。  いつものように居合の構えに入る。切っ先が届く範囲に入ってくるものは全て斬る。そんな空気が漂っていた。ランナーが埋まっていなければ、遠江はこの桐葉を歩かせたのではないか。ただ、それをさせないために、伊香保と滝音は遠江を詰んでいた。遠江は桐葉と勝負するしか道はない。
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