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桐葉は冷静だった。
全力で大野が投じるストレート、スライダー、フォーク、カットボールを、ボール球は見逃し、際どいボールはカットしてファウルにしていく。最初の打席で大野は手の内を見せなかったが、2打席目とこの3打席目であっという間に全ての球種を桐葉に見せることとなった。
カウントは2ボール、2ストライク。
追い込んではいるものの、遠江バッテリーは桐葉へ投げるボールを考えあぐねていた。
今日の大野のピッチングの中で、キレがあるボールはストレートとスライダーだった。キャッチャーの高橋はそれを重々承知のうえでフォークのサインを送った。高橋は桐葉がフォークを経験した回数が少ないことに活路を見いだそうとしたのだ。
だが、大野はまた首を振った。大野の選択はスライダー。高橋は迷いつつも仕方ないと思い、首を縦に振った。
と、キャッチャーの高橋は不思議な光景に包まれていることに気付いた。雨足が強くなり始めている。目の前の大野が雨を拭っている。ただ、どういうわけかホームベース上には雨が降っていない。見上げると、桐葉の頭の上1mくらいから、落ちる雨が桐葉を避けているように見えた。静の力とでも言おうか。静かに立つ桐葉から、静かながら大きな力が放たれている。雨をも避けさせる力が……。
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