16.決勝 遠江戦 甲賀者極まる

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 ボールをユニフォームでこすり、大野は手についた雨粒を払った。  セットポジションで静止し、充分な間をとって大野はスライダーを投じた。雨の中でもしっかりと指がかかった素晴らしいスライダーであった。外から内に切れ込んでくる。並みの選手では、このスライダーは打てない。  並みの選手ならば。 『水月刀』  ふわり。桐葉が雨打つ宙に舞う。回転する桐葉のバットに吸い寄せられるかのように、鋭く曲がったスライダーが桐葉のバットと衝突した。  カキイイイイイィィン!!  白球が雨を切り裂いていく。キャッチャーの高橋はマスクを取り、打球の行方を見つめた。大野は投げた姿勢のまま、後ろを振り返ることはしなかった。  ライトが全速力で後方へ走る。雨をこじ開ける音が響く。三塁側のスタンドは総立ちだ。ライトは打球を追うのを諦めた。確実に頭上を越える。  ライトの守備を確認して、白烏はホームベースを踏んだ。すぐ後ろから犬走が迫っている。  桐葉の打球がライナーのままフェンスに当たる。ライトがそのボールを処理した時、一塁ランナーの月掛は三塁へ差し掛かっていた。  月掛は三塁を回るか、判断しかねていた。これで3-1。ここは無理をするところではない。月掛は三塁を大きく回って、足を止めた。踵を返して三塁へ戻ろうとしたところへ、ライトからの素晴らしい送球が返ってきた。キャッチャーの3m手前でバウンドする理想的な返球だ。  月掛は危なかった……と胸を撫で下ろした。走っていたら本塁で憤死していたと思う。素晴らしい返球の行方を確認していた。  が、その途端、月掛は慌てて回れ右をして、また猛然と本塁へ向かった。
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