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ライトからの素晴らしい返球は運悪く、ぬかるんだグラウンドでイレギュラーバウンドしたのである。
キャッチャーが身体で止めにいくが、その脇をすり抜けた。そして、キャッチャーの後ろには本来カバーに入るはずの投手の姿がない。
「大野! カバー!!」
遠江ベンチから久保田の大声が響く。ハッと目覚めたように大野が走り始める。悔しさのあまり、大野は野球部の基本中の基本であるカバーを怠っていた。
月掛はそれをしっかりと確認していた。転々とバックネット方向へ送球が転がる間に月掛は本塁へ疾走する。キャッチャーの高橋がやっとボールを抑え、遅れて本塁にやって来た大野へボールを投げた時、既に月掛は本塁に滑り込んでいた。
甲賀4-1遠江
桐葉の走者一掃のツーベースヒットで甲賀は一気に試合をひっくり返し、3点ものリードを奪った。そこには、記録にはつかない大野のカバーリングエラーが重なっていた。
甲賀にとっては大きな3点リード、遠江にとっては痛恨の3点ビハインドとなった。
ここで一気に雨足が強まった。主審は天を仰ぎながら、一旦ゲームを止めるか迷っていた。この僅かな沈黙が遠江ナインの心を止めた。
大野の独り相撲に、内野陣、外野陣ともに白けた表情を浮かべている。遠江のいる一塁側ベンチに、雨がより強く降っている錯覚を起こさせた。
「これで切るぞ! 集中、集中!!」
むなしく、久保田の声だけが静寂のグラウンドに響いていた。
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