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2.ピッチャー 白烏結人
物心ついたときには十本の指すべてに重りがぶら下げられていた。
幼稚園に入ると、周りの目を気にしてくれたのか、重りはすべて倍の重さの指輪に変えられた。
「白烏(しろからす)くん、幼稚園で指輪はつけちゃダメだよお」
何百回その言葉を言われただろう。
父と母に指輪を外したいと何十回にわたって懇願したが、当たり前のように受け入れられなかった。
理由はひとつ。
甲賀忍者だから。
歌舞伎の世界なんかと一緒だ。その家に生まれたからには、甲賀忍者として生きていくという定めなのだ。
ただひとつ、世を忍ぶ存在ゆえ、歌舞伎の世界とは違って華々しさなどは一切ない。地味に気付かれないように、他人と違う生活をしてきた。
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