5.サード 蛇沼神

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5.サード 蛇沼神

 蛇剣という国に一本しか無い宝剣がある。  蛇沼家に先祖代々受け継がれている物で、国内はもとより外国からも億単位で売ってほしいと声がかかったが、蛇沼家は頑として譲らなかった。  蛇剣には妖しが宿るという。  その蛇剣の使い手は蛇沼家の血を引くものでなければならない。妖しを抑えるための素質、そして特別な精神訓練が揃わねば、蛇剣は暴走するのだ。大きく歪曲した蛇剣は、真一文字に斬ると心臓から腸まで届く。斬られた身体は、刀で斬られたとは思えない見るも無惨な姿となる。  蛇沼神(へびぬまじん)は川沿いの土手に腰掛けていた。  もう授業は始まっている。敢えてサボっている。子供の頃からなので、随分と慣れた。  蛇沼家に生まれし者、真っ直ぐに生きることは許されない。蛇剣を操れないからだ。人が白ならば黒、山行けば川、そう教えられて人と違う人生を歩んできた。  タンポポがそよ風に揺れている。そっと息を吹きかけると、天使のように飛んでいった。微笑みながら綿毛を見送る。  ………………。  ダメだ、ダメだ。  神は綿毛の半分残ったタンポポを踏みにじり、ぺっと唾を吐いた。  胸がぎゅううぅと締まる。
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