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「ねえ理緒!軽音部入ろうよ!」 翌日のことである。 美咲は私にとんでもない提案をしてきた。 「無理だよ…。私楽器なんてやったことないもん。」 「えー大丈夫だって。ライブ楽しかったんでしょ?」 ライブは本当に楽しかった。自分もあんな風になれたらどんなにいいだろうと考えもした。 しかしそれでも実際にやるかどうかは別問題なのだ。 「理緒も自分を変えたいって言ってたし、私は先輩に近付くきっかけを作れるし、いい考えだと思うんだよね。部活は何かしら入らないといけないんだし、ね、いいでしょ?」 彼女は甘える子猫のようにねえねえと私に訴える。これは困ったことになった。 「今日、説明会があるんだって。迷ってるならさ、とりあえず行ってみようよ!」 私はいよいよ彼女に根負けしたのだった。 旧校舎の角の部屋、扉をあけるとそこには既に何人かの新入生達が集まっていた。 みんな思い思いに話に花を咲かせている。こういう空気が私は苦手だった。 美咲はすんなりとそんな彼らの輪の中に溶け込んでいた。私とは対照的に彼女はこういうことが上手いのだ。 私はなんだかいたたまれない気持ちになってトイレに行くと嘘をつき、時間ギリギリまで時間を潰すことにした。 放課後の旧校舎はひっそりとしていて、まるで異世界にでも迷い込んだようだった。 ボロボロの机を指先でそっとなぞるとふいに背後から声がした。 「君新入生でしょ?もしかして迷子?」 振り返ると、そこにはあの時のドラムの先輩が立っていた。 「あの、軽音部の…」 「あ、もしかして入部希望の子?パートは何希望?」 彼は軽音部という単語を聞くや否や目を輝かせて問いかけてきた。私が答えに窮していると察したのかごめんごめんと謝った。 「矢継ぎ早にごめん。つい嬉しくて。」 明るく笑う彼はあまりにも眩しくて、太陽のような人だと思った。 「あの、私楽器とかやったことなくて…人と話したりするのも苦手で…でも、変わりたくて。」 消え入るような声だったと思う。それでも彼は真剣に私の声に耳を傾けてくれた。
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