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何かを始めるためには、まず踏み出す一歩が重要だと思う。 あの日、私は軽音部への入部を決めた。 とはいえ楽器なんてほぼ触ったことがない私には何から始めればいいのか皆目見当がつかなかった。そこで私は部室へと足を運んだ。 夕暮れの校舎の中、そこにはひとり一心不乱にドラムを叩く熊谷先輩の姿があった。 集中しているためか普段の飄々としている様子はなく、その鋭い視線に私は思わず息をのんだ。 どれくらいの間そうしていただろうか。私の視線に気づき、先輩がひらひらとこちらに手を振った。 「なんだ来てたなら声をかけてくれればよかったのに。俺なんか恥ずかしいじゃん。」 そういうと照れくさそうに汗を拭った。 「それで、やりたいことは見つかった?えっと…」 「あ、私天野理緒っていいます。」 「理緒ね。よろしく。」 異性に名前で呼ばれたことなど今までほとんどなかったからなんだかどきりとし た。 まだ何を始めたらいいかわからずに迷っていると正直に伝えると先輩はうーんと唸って問いかけた。 「そうだな…理緒は普段どんな音楽を聴く?」 私はあまり音楽は詳しくなかったが、それでも2、3名前を挙げた。 「よし、じゃあ理緒、歌ってみるか。」 先輩は近くに放置されていたギターを手に取り、おもむろに弾き始めた。 いきなりのことで戸惑っていると先輩は一緒に歌ってくれた。 いつもなら緊張してしまって人前でなど歌えないのだが、不思議と先輩の前でだけは歌うことができた。楽しい、そう思うことができたのだ。ところが、1番を終えたところで急に先輩は演奏を止めた。私は何かしでかしてしまったのだろうかという恐怖から先輩の方を見れずにいた。 すると先輩は私に向かって半ば興奮気味にこう言った。 「理緒、すごいよ。君は歌をやるべきだ。」 思いもよらない言葉に私は間抜けな声をあげてしまった。
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