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3
一度認識してしまうと恋というのは厄介だ。
いつも通り放課後に部室に向かう道すがら、私は困惑していた。
どんな顔をして先輩と会えばいいのかわからなかった。
気が付けば季節は過ぎて、もうすっかり夏の陽気になっていた。
ちょっと気持ちを落ち着けてから向かおう。そう思った矢先、近くの教室で話をしている熊谷先輩の声がした。どうやらバンドのメンバーと話をしているらしい。
「あーもう夏とか。受験無理だわ。」
「お前大学行くんだからいいじゃん。俺なんて就職組だから春にはもう社会人様だぜ。」
「お前がスーツ着てるのとか想像出来ないんだけど。」
どうやら進路の話らしい。そうだ、先輩達は三年生。あと半年もすればいなくなってしまうのだ。
「クマはいいよなもう進路決まっていて。」
そういえば私は先輩の進路の話は聞いたことがなかった。
「いつ行くんだっけ?アメリカ。」
私は思わず自分の耳を疑った。
今、何と言った?
「卒業したらすぐに向こうに行くつもり。」
私は目の前が真っ暗になった。
「でもさ、クマどうすんの?可愛がってる後輩ちゃんいるでしょ?」
「ああ、天野さんだっけ?そういえば最近よく一緒にいるよな。」
突然自分の名前が挙がったことに驚いた。
「もうアメリカ行きの話はしたの?」
「いや、まだ。」
熊谷先輩の表情が曇る。
「なんかさ、話しにくいなと思って。」
なんでも話してもらえるくらい親しくなれているのだと私は勝手に思っていた。
それが大きな勘違いだったなんて、恥ずかしくて、悲しくて、やり場のない感情が私の中で暴れ狂った。
私はいてもたってもいられなくなり、駆け出した。
廊下を走る足音が嫌になるほど響いて、苦しくて苦しくて、涙が止まらなかった。
私はその日、結局部室に顔を出すことはなかった。
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