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その姿を初めて見た時、世界が止まったような気がした。 私は人と話すことがあまり得意ではなくて、この高校に入学してからというもの、いつも親友の美咲に手を引いてもらっていた。思えばあの日も彼女の気になる先輩が軽音部でライブをするからどうしてもついてきてほしいと言われ、普段はバンドの音楽など聴かない私がその日ばかりはついていったのだ。 私達の学校には現在自分達が使用している校舎の隣に以前使われていた旧校舎と呼ばれる建物があり、一部の部活動ではこの旧校舎が部室として使われていた。 少し埃っぽい年季の入った建物に、爆音が響いている。ライブはもう始まっているらしく、彼女の目当てのバンドはこの次に出演するらしい。 「美咲の好きな人はどんな人なの?」 「ボーカルの人。人気高いんだよね。もうすっごいかっこいいんだから。」 興奮気味に語る彼女はなんだかとても可愛らしくて、少し羨ましくもあった。 自分にもそんな風に好きになれる誰かがこの先現れるのだろうか。 ぼんやりとそんなことを考えているとちょうど演奏が終わった。 準備のためにメンバーがステージに現れるや否や会場から歓声が上がった。ざわつく客席の様子を見るかぎり、どうやら彼女のライバルは多そうである。 準備が終わり、一瞬の静寂が訪れる。 ドラムスティックの4カウントが鳴り響くと音の波が一気に押し寄せてきた。 私はその刹那、一瞬にして心を奪われた。 歌が、楽器の音が、一つの波となり包み込んでいく。なんて心地いいのだろう。衝撃と興奮でごちゃ混ぜになった頭で改めてステージを見ると誰よりも楽しそうな表情でドラムを叩いている先輩の姿があった。 それが熊谷先輩との出会いだった。
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