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『まん……ま』
赤子のその言葉に、涙が溢れ出す。
丸い瞳は真っ直ぐに私を見つめていた。
あぁ、この子は私の心配をしてくれていたか。
それなのに、私はこの子を恐れてしまった。
「ごめんね……こんなお母さんでごめんね……ありがとう」
赤子にそういうと、赤子は楽しそうにきゃっきゃと笑い始める。
「さて、では僕の仕事を終わったので帰りますね」
「ちょっと待ってください!」
立ち去ろうとする、獏を引き止めると、獏はきょとんとした表情でこちらを見た。
「あの……お代は」
「あぁ、それなら貰いましたよ」
「え?」
「貴女の悪夢ですよ、獏にお金は何の意味もありませんから」
獏はそういい、いつも人懐っこい笑みを浮かべて姿を消した。
目を覚ますと、いつもよりすがすがしい気持ちになっている事に気づく。
起きて、朝食の準備をすると、夫がしばらくして、台所に下りて来た。
いつもの会話のない朝食。
だが、私はそんな無言の中、意を決して口を開いた。
「ねぇ、今度の休み、一緒にどこかに行かない?」
自らそう切り出すと、夫が唖然とした表情で私を見てくる。
そして、少しの間の後、小さく微笑んだ。
「そうだな、行こうか」
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