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「とにかくこれをもらってくれ」
「すみません、わざわざありがとうございます。……あ、あの」
ついにこの時がきた。電話番号を渡す準備は何年も前から出来ている。橋爪はポケットの中に忍ばせてある、名刺入れに手を伸ばした。
「最近ときどき部下の方と一緒に来る、背が高くてきりっとした雰囲気の方も同じ会社の方ですか?」
(なんだよ、今度は神長氏かいな)
橋爪は舌打ちして、カウンターの上のビニール袋をひったくった。坂巻相手ならば百に一くらいの勝ち目はあるが、神長では万に一つも希望はない。
「おうおう。そいつも何ヶ月かはうちの会社に来る予定だな。そこらじゃ見かけないほどイケメンだろうがよ」
「でも、橋爪さんも眼鏡取ったらたぶん」
「……あ?」
聞き返したところで、自動ドアが開いた。
「あ、いらっしゃいませー」
麻衣は入り口に目を向け、煙草の並んだ棚から、水色のソフトケース煙草を二つ取った。
入店してきた中年男性は、まっすぐ麻衣のいるカウンターに進んでくる。「もう一人の店員の方へ行け」と文句を言いたい気持ちもあるが、そうもいかない。きっとあちらも麻衣目当ての常連客なのだ。同類だ。
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