朝マヅメの語らい

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3  午前三時半、天候はおそらく曇り。陸から沖に向かって風が吹き続けている。橋爪はウィンドブレーカーの襟を立てて首を縮めた。  気候条件は最高だ。こんな日はラインのテンションが作りやすく、アタリの引きに気付きやすい。アオリイカは目で餌を追う。だから、晴れ続きで濁りの少ない今日の海は、理論上絶好のイカ釣り日和だ。  橋爪は防波堤の先端を陣取って、ヘッドライトの光を頼りに、着々と準備を進めていた。  昨晩も帰宅は十二時を回っていたが、一人だからこそいちばん美味しい時間を攻められると思うと、うだうだ寝てはいられない。 釣りをする時間帯は釣果を大きく左右する。朝マヅメは海の生き物が餌を求めて活発になる時間であり、この後夕方までサッパリ釣れないなんていうこともよくある話だからだ。 そうなると、朝釣りと車中泊はほぼセットになるのだが、残業が続く週は朝釣りがしんどい。 (まずは鉄板で攻めるか)  橋爪は声が漏れるほどの大欠伸をして、プラスチックのボックスを開けた。中にはエビの形を模した色取り取りのルアーが詰まっている。 アオリイカ釣りの仕掛けにおいて、もっとも重要なのはイカ釣り用のルアー、餌木(エギ)選びだ。
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