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考えてみれば、神長は坂巻側の人間だ。もともと二人は友人関係にあり、坂巻から仕事の評判を聞かされた総務部長が、改革推進のために神長を呼び寄せたのだ。
つい先ほどまでの釣りの話で、神長に対しての壁を崩してしまったせいなのか、思いがそのまま流れ出す。
「あいつは自分が出来ることを、人が当たり前に出来ると思ってるのが良くない。坂巻が異動になって、代わりに他のやつがきたとして、坂巻を頼ってきた周りのやつらはみんな、これまでと同じ出来栄えを期待する。
でも、誰もが坂巻みたいにできるわけじゃない。線引きとかマニュアルってのはそういうためにあるんだ。それを上回る仕事をすれば、ちやほやされてそりゃあいい気分だろうが、そういう身勝手さが必ず誰かを傷つける」
神長はこれまでの鬱憤を受け止めるように「わかります」と深く頷いた。
「……わかってねえんだよ、坂巻は。でかい組織の中にいるってことを。俺はそういうのを見ていていらいらするんだ」橋爪は吐き捨てた。
「今言ったような話を、まきさんにしたことはあるんですか?」
「ない。無駄だ、無駄。あいつは一見素直で温厚そうだが、こうと決めたことは頑なに貫こうとするからな。一人で勝手にあれもこれも抱えて、いっぺん潰されちまえばいいんだよ。そうじゃなきゃ俺の言うことなんて聞き入れんだろ」
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