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「例えばそうなったとして、まきさんの考えは変わるでしょうか」
「変わらんな」
橋爪が即断言すると、神長がふっと笑いをこぼした。
「橋爪さんはよくわかっていらっしゃるんですね、部下のことを」
「ああ?」
橋爪は思わず神長を睨みつけた。しかし矛先を向けられようとも意に介さずに、神長は穏やかな笑みを浮かべている。
「そういえば、まきさん釣りに興味がありそうですよ。釣りたてのアオリの味を知ったら、きっと夢中になると思うんですが」
「間が持たねえよ。それに、俺だってイカ釣り初心者だ」
橋爪は首を横に振った。仕事を離れて話をしてみることを勧めているのかもしれないが、冗談じゃない。
坂巻からは、仕事ができない上司だと思われているに違いないのだ。これでもしボウズに終わり、釣りが下手だというレッテルまで貼られてしまったら最悪だ。
収穫なしでも、それを弄ってくるような男ならまだいいのだが、「今日は残念でしたね」などと気を遣われては立つ瀬がない。
「とりあえず坂巻はいいから、神長氏はタックルの相談乗ってくれよ。今日買わないと土曜に間に合わねえんだわ」
橋爪は言い放って、モニターを強引に神長の方に向ける。そうすると、神長もさすがにそれ以上、坂巻との釣りを勧めてはこなくなった。
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