朝マヅメの語らい

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 金色ベースにピンクのカラーリングが施された派手派手しい餌木はとてもエビには見えないが、餌を探すアオリイカにアピールするにはちょうどいい。マヅメ時に使う餌木の鉄板カラーだ。  ロッドをしならせ、沖に向かって餌木を飛ばす。遠投用にグリップの長いロッドを選んだのと、細いラインにしたのが良かった。追い風に乗って、飛距離も出そうだった。人のいない時間帯だと、周りに気を遣わずに思う存分遠投ができる。  竿を下げ、光でラインのテンションを確認してから、穂先を一度振り上げる。イカ釣りの基本動作、シャクリだ。餌木を動かし、イカを誘う。リールを巻いて糸ふけを取りアタリの感覚を待つ。  秋イカはアクションを大きめにしたほうがいいと聞いてはいるのだが、まずは様子見だ。もうじき午前四時。船釣りのように大量とはいかないかもしれないが、おそらくそこからが勝負である。  気づけば淡い光が、空と海の境を生じさせていた。橋爪はライトを切ってヘッドバンドを外した。 釣り人にとって、夜明けを見るのは特別なことではない。それでも、刻々と景色が移ろっていく様子を眺めていると、仕事で日々起こる諍いも、取るに足らないもののように感じさせてくれる効果はあった。
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