朝マヅメの語らい

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ボウズ続きの時があっても、橋爪が釣りを止めようと思わない理由もその辺にある。 (坂巻が釣り、ねえ)  穂先を見つめていると、出来すぎた部下のことが思い浮かんだ。そういえば夏頃から、海にはまっているという話は周りから時々聞く。 しかし、釣りさえできればその相手が誰であっても構わないというわけではないだろう。教えるならば神長が適任だ。  橋爪はグリップを握りなおし、リールを巻いた。 (休みの日まで、気を遣わせたくもねんだよな)  坂巻の仕事ぶりを見ていると、そんなに他人本位で疲れないのかと、橋爪はいつも疑問に思う。 会社から求められていることを言われるまでもなく察知して、誰が相手でも的確に応える能力は認めるが、果たしてそれは坂巻自身の考えや目指すものと合致しているのだろうか。 仕事はできるし、誰の役にも立つ。しかし、八方美人の事なかれ主義の先に、坂巻自身が何を求めているのかが良く分からない。改革派、保守派、それぞれを助けようとしたところで、現実的にはどちらか一方しか生き残れないのだ。  一度でいいから本音を聞いてみたいという気持ちもあるが、おそらくそれは無理だということも、橋爪はこの二年でよく分かっていた。 あの男は口が絶対に他人の悪口をこぼさない。面と向かって上司に悪態をつくことがあるとは思えなかった。
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