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「残念なことに、仕事が入っています」
神長は尖ったあごをこころもち上げ、水平線の向こう側に視線を投げている。
「ロッドを選んだ以上、釣れるように責任を持つってか?」
「それもありますが、どのみち早朝起きだったのでそのついでです。……タックルの具合はどうですか」
「いいね。釣れるかは知らんが、俺のスタイルに合うからストレスがない。エギングロッドの標準仕様で、船釣り用掴まされなくてよかったわ」
「とりあえず、で買うと後々全部買い換える羽目になってきますからね。用途が限定されていても、気に入った一本を見つけたほうがいいです」
「違いねえな」
欠伸をかみ殺しながら、穂先を上に吊り上げてイカを誘ってみる。
せっかく神長が来てくれたのだから一匹くらいは釣り上げたい。橋爪がそう思っていると、突然神長がグリップを握った。どうやら今、手の動きを止めろということらしい。
「イカが餌木に抱きつくのはフォールのときが多いです。この時間なら、ラインよりもロッドでアタリをとった方がいいです。ステイもなしでいいかもしれません」
「なるほど。じゃあフォールにバリエーションつけたほうがいいわな」
「ですね」
神長は頷いて、ロッドがぶれないようにそっとグリップから手を離した。
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