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「まあ俺も居場所がねえのよ。総務部ってのは、うちの会社じゃあ改革派の本拠地みたいな場所だからな。
同じ考えの人間が集まって、ひとつの目標に向かおうとする力はそりゃすげえわ。圧倒的だ。俺はずうずうしく居座ってやってはいるが、課長職にせよ、本当は坂巻に任せたいはずだ。そういう流れになってる」
「そんなことないですよ」神長はようやく口を開いた。
「なんだよ、神長氏までお世辞かよ」橋爪は鼻で笑った。
「いえ、そうではなく。橋爪さんの今のポジションは妥当です」
「根拠は」断定的な口調で言われて、橋爪はつい問いただしていた。
「よくある改革の方法のひとつに、外部の人間を入れる、というものがあるでしょう。突然取締役にその業界のことをよく知らない者が就くなど、一見無茶に見えるものです。社員たちはそのやり方に大概反発します」
「よく聞くぜ、そういう話。他業種企業の社長が突然取締役で入って、権力にものを言わせためちゃくちゃな改革が始まった、とかな。単なる会社都合だろ?」
「いえ、そうでもありません。敢えて反発させて、これからどうするべきなのか全社員に考えさせるきっかけを与えるためでもあるんです」
「……へえ」
知人たちがよく愚痴を漏らす話の意外な側面を聞き、橋爪は素直に感心した。確かに、そういう捕らえ方もできる。からくりを知られては効果が弱くなる。だから上の人間は意図を故意に漏らすことはしないのだろう。
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