一章

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「危ないよ」 背後から降った声は優しく耳をくすぐる。男の人の甘い声だ。私は突然の事に身体ごと固まる。 「じっとしてて」 私の手の真上に一回り大きな手が置かれる。お父さんの手とは違う、骨張った硬そうな手だ。 「手、離して」 「は、はいっ!」 慌てて手を離すとその本はするりと本棚を抜ける。 「はい、取れたよ」 男の人が私の手に本を乗せた瞬間、心がもぎ取られる。私を見下ろして穏やかな微笑をしている彼に目が釘付けになった。 一目惚れだ。初めての感覚ながら、それは確信だった。
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