束縛両断

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概念的次元に存在する記憶館。ここは図書館であるが、人々に伝わるままの形で物語を収容し管理されている。 物語の登場人物とは即ちストーリーにおける役者であり、マスター(作者)の描く通りに舞台を動く。 三次元の役者であれば、悲劇であれ悪役であれ役者に過ぎない。舞台が終われば喝采に高揚を覚え、舞台を降りればひとりの人間に戻る。しかし二次元において人間と役者は同意義なのである。 赤いフードは思った。「何故本を開く度に自分は食い殺されねばならないのか」 可憐な乙女は思った。「何故マスターの決めた子息と悲恋をせねばならないのか」 ある日、 赤いフードは狼に弾丸を打ち込んだ。 可憐な乙女は優しき従兄と関係を持った。 それを許さない者がいる。 人々の風化ではなく、内部からの物語編纂など許されない。 記憶館の管理者たち…編集者と呼ばれるが…彼らは抑止力でありながら、マスターの物語さえ凌駕する役者の意思に悩んだ。 彼らは本来マスターが望んだ登場人物(レプリカ)を作り、行き過ぎた役者を隔離した。 そこは、人間の欲望や劣情などの汚い感情によって生まれる魔物の巣窟であった。 概念的存在であるが故に役者を直接始末出来ず、三次元から生産されるものを処理出来ない。彼らは自分らの「厄介事」を同じ場所に閉じ込めたのだ。 だが彼女たちは絶望に呑まれることなど決してなかった。 「マスターのシナリオに恨みはあっても人間は嫌いじゃない。自分らが生きられるのなら汚物の掃除くらいしてやってもいい」 そう言って武器をとった。
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