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「息子さんですか?」口が滑る。
「いいええ、違うのよ。私にこどもはいなくてね」
はぁ、と返事をしかけて、え、と顔をあげる。すると老女は「あらやだ」といたずらっぽく眉尻を下げる。「私ったらつい」
「どうしてですか」思わず食らいついてしまう。
「詐欺だとわかっていらっしゃるのに、どうしてです」
「どうして……寂しいから、かしらねぇ」
まあまあ一度落ち着いて、というような仕草をされ、腰が浮きかけていたことに気付く。脱力するようにイスに腰をおろすと、老女はふわりとやわらかく笑った。
「だって、私の息子だというお方が、お金を受け取りに来てくださるんですってよ? 息子なんてもういないのに」
そうしたら、ねぇ。
あいたくなってしまうじゃない。
目尻のしわが切なくゆれる。
「喫茶店に誘ってくださったの。そこで会おうって」
「……たぶん、来ないと思いますよ。息子さんの同僚とか、上司の方とか、そういった方がお見えになるかと」
「いいのよ、それで。息子のようすを知りたいだけだもの」
「……」
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