三十年来の息子

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老女は目を細め、そうして言った。 「だから、百万円、お願いできるかしら」 * 「通報、ありがとうございました」 そう言ってやつれた顔の刑事が頭を下げた。隣でかしこまっている若手の刑事も、機敏な動きで礼をする。いえいえ、と先輩が首を振るのを、複雑な気持ちでうしろから眺めていた。 「おかげさまで──」 老女をだましたのは、各地で被害をもたらしている有名な詐欺グループだったらしい。 どうやら受け子にお金が渡る寸前で逮捕することができたらしいが、やはり下っ端だったらしく、捜査はこれからも続くという。 ──これでよかったのだろうか。 彼女は寂しがっていたのだ。詐欺だとわかっていながら、人と話がしたくてお金を渡そうとしていたのだ。それほどまでに寂しがっていたというのに? 彼らの正義は彼女のためになったのだろうか? 「……では、」 二人の刑事が、重いものを引きずるように帰っていく。──と、不意にやつれ顔の刑事が振り返って、「ああそうだ、」
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