第1章 出会い

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わたしが彼の事を好きになったのは、ある蒸暑い夏の日の放課後、夕焼けに霞む教室で、彼の姿を見た時からだった。 * * * その日わたしはいつものように、毎朝登校時に校門前にて行われている服装チェックにスカートが規定より数センチ短いという、なんともくだらない理由で引っかかっり、罰則として、放課後に中庭の草取りを命じられていた。 あーあ。せっかくの休部日なのに・・・。 今日は1週間の中で唯一、部活動や委員会などその他もろもろの行事が休みの日だった。生徒たちはこの日を楽しみに、それぞれイベントを組み放課後を満喫するのである。いわば学生生活のハイライトの日である。 放課後ここに集まるメンバーはだいたいいつも決まっていた。しかし何故が今日はわたしだけ特別運が悪かったらしい、いつものメンツが楽しげに笑いながら渡り廊下を通り過ぎる姿をみて、わたしは深い溜め息をつく。 学園の風紀を整える為と言いながら、嬉々として毎朝校門前に立つ風紀指導の教師は、日頃の鬱憤を最もらしい理由をつけて晴らすためにそれを行なっているとしか思えなかった。 不貞腐れたようにもう一度深い溜め息をついて、わたしは軍手の隅をキュッと引っ張り、不服ながらも作業に戻った。 * * * 草取りのノルマを達成し、 「今日はここまででいいぞ」 と風紀指導の教師(ちなみに名前は三島)が呼びに来たのは、青かった空がすでにオレンジ色に変わり始めた頃だった。 ・・・もうみんな帰っちゃったよね。 誰と約束をしていた訳でもないし、行きたいところがあった訳でもない。けれど自分以外の大勢が過ごしていたであろう楽しい時間を思うと、わたしは何だか自分だけが仲間外れになったような、自分という存在が隅っこに追いやられてしまったような、何ともいえない寂しい気持ちになった。 ・・・帰ろうかな。 思い、校門に向かって歩き始めた時だった。 明日提出の課題に必要な教科書が机の中に置いたままだったことを思い出した。 わたしは歩き出した道をくるっとUターンし、教室に向かって歩き始める。 思い出して良かった。よりによって課題提出は三島の授業だったし、これでまた忘れたとなればその逆鱗に触れるのは間違いなかった。 神様は、わたしを見放してはいないようだ。
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